ねがいごと、ひとつだけ

「……新年早々、仕事かよ」
「それはこっちのセリフ! あんた達と組むと9割5分の確率でお金にならないのよ?」
「ちょっと待て。それは俺達のせいじゃねぇだろうが!」
「あんた達のせい以外になにがあるのよ。いっつもお金なくて、ツケで食べてるくせに」
 ギャーギャー騒ぐ傍ら。
「っとに、あの二人は仲がいいのか悪いのか……」
「んあ〜〜。俺もよくわかんな〜〜い。新年早々元気だよね〜〜」
「まぁ、いいんじゃないの? あれも一種のスキンシップでしょ」

 新年になっても、HONKY TONKはいつもと変わらない喧騒をたたえていた。
 原因は、明日決行される仕事のせいだった。GetBackersが奪還した品物を運ぶ役目をヘヴンから依頼された卑弥呼が、打合わせのためにここを訪れたのがそもそもの始まり。蛮がいつものように卑弥呼をからかっているうちに、いつものように口喧嘩に発展しただけ。

 そんなやかましさのなかに、来客を告げる鈴の音が鳴った。

「明けましておめでとうございます。皆さん」
「カヅっちゃ〜〜〜ん! あけましておめでとう〜〜〜」
「あら、花月くん。その着物どうしたの?」
 HONKY TONKに現れた花月は、いつもと違う装いだった。いつもの微妙に肩を露出しているシャツとジーンズではなく、紺地と灰色の縞模様風の着物に金地の帯を締めている。ご丁寧に髪も結い上げ、手には風呂敷包みを携えて、どっからどう見ても「品のいいお嬢様のお年始まわりスタイル」である。
 そのあまりにもはまり過ぎた姿に、銀次・ヘヴンはもちろん、喧嘩をしていたはずの蛮や卑弥呼までもが目を奪われる。
「先日、偶然小紋の着物を手に入れまして、折角だから一式そろえて着てみたのですが、おかしいですか?」
「……いや、逆に似合い過ぎだろそれ」
「……相変わらず女物が似合うわね……」
 照れくさそうに言う花月に、呆然と蛮・卑弥呼が言葉を返す。
「小紋かぁ。また随分とシックな柄を手に入れたわね〜〜」
「そうですね。でも年始まわりにはちょうどよかったものですから」
 花月とヘヴンの会話を横に、他のメンバーは二人に聞こえないように会話をする。
「なぁ。小紋ってなんだ?」
「ちょっと、あたしに聞かないでよ。知るわけないでしょ!」
「着物の種類じゃないのか?」
「着物に種類ってあるんだ〜〜。俺知らなかった〜〜」
 そうやって小声で囁いていたのが聞こえたのか、花月とヘヴンがにっこりと笑って説明する。

「小紋というのは、着物の種類よ。振袖とか留袖とか訪問着とか色無地とかいろいろあるんだけど、小紋はその一種よね?」
「ええ。今回はたまたま年始だったので、着てみようかと思っただけなんですけどね」
「……なんで、『年始だから』小紋なの?」
「振袖や留袖は、それぞれ女性の正装なんですよ。卑弥呼さんが着られるのでしたら、振袖でも年始には構わないんですけど、僕くらいの年になってしまうとちょっと略装くらいがちょうどいいんです。よろしければ、卑弥呼さんも着ますか? 知り合いに呉服屋を営んでいる人がいるので、よろしければ見たてますよ?」
「い、いいわよ! そんなの!! 絶対似合わないに決まってるじゃない!」
 花月の勧めに、大慌てで首を振って断る卑弥呼。
「あら、着てみないとわからないわよ? 似合うかどうかなんて」
「卑弥呼に着られたら、着物のほうが迷惑だろうよ。止めといて正解だ」
「ちょっと蛮くん、それは言いすぎよ。……私も着てみたいな〜〜。着物」
「……ヘヴンさんは、着物は似合わないと思いますよ?」
「あら、どうして?」
 ヘヴンの言葉に、花月は少し言いにくそうに言いよどんだ後、さりげない爆弾を言い放つ。

「……いや、そこまで胸のある方が着ると、潰したとしても着物のラインが崩れますから……」

「なっ……!」
「違いねぇ! 絃巻き、おめぇも言うことは言うんだな」
「蛮くん! 失礼ね!! 私だって潰せばどうにかなるわよ!」
「いや無理でしょ。あんた何カップよ。それ。てか、あんた正直に言っていいことと悪いことくらいわかりなさいよ」
 ヘヴンが言葉を無くすのと同時に、蛮が笑い転げる。二人のやり取りに、冷静につっこむ卑弥呼。

「だから、言いたくなかったんですけどね。僕は。……あ、マスター。これ、ご挨拶のしるしに。こちらは喫茶店ですから、クッキーにしてみたのですが、よろしければどうぞ」
「ああ、すまないね。花月くん。まだどこかに行くのかい?」
 花月が持ってきた風呂敷包みにはもう一つ、何かの菓子らしき包みがある。
「これから無限城に行くんです。あっちにも顔を出さないと拗ねる人間もいますし」
「大変だな」
「ええ。慣れてますから」


「で、なんでお二人もご一緒なんですか?」
 花月がHONKY TONKを出て15分後。MAKUBEXは思いきりため息混じりにつぶやいた。目の前には着物姿の花月と、……朔羅特製のおせちに貪りつくGBの二人。
「無限城に行くって行ったら、一緒に行くって行って聞かなくてね……」
 苦笑する花月の声が耳に入ったのか、蛮が一言。
「たまにはいいじゃねぇか。こういった季節ものを食わせてくれたって」
「……いや、それはあなた達のためにあるんじゃないんですが……」
「でも、おいしいよね〜〜。蛮ちゃん」
「ああ!」
「あ〜〜〜それ、俺の〜〜〜〜〜!!」
「うるせぇ! こういうのは早い者勝ちだ!」

「……ごめんね。こんな醜い争い見せて」
「いいよ。別に。ね? 朔羅」
「ええ。喜んで食べていただけるのでしたら、腕を振るったかいがありましたわ」
 おせちを貪る二人を横目に、三人は和菓子――花月が持ってきた品であるが――と日本茶を飲む。いつもはパソコンの前から動かないMAKUBEXも、飲み物を飲むときだけは別らしい。
「その姿、二人には見せましたか?」
「俊樹には、見回りしてるところに会ったから。十兵衛は部屋?」
「ええ。……さぞ感動したことでしょうね。雨流も」
 ……感動どころか、今にも感激して泣き出しそうな顔をしている俊樹を、「見回りの最中だから」といって一緒の笑師が引きずっていかなければ、きっと今でも花月達はあの場を動けなかったであろう。
「じゃあ、十兵衛のとこに行ってくるよ。二人を頼みますね」
「うん。あ、お年玉ありがとね」
「君はまだ子供の年なんだから、遠慮しなくてもいいんだよ」
「行ってらっしゃい。……十兵衛の目が見えたら、喜んだでしょうね」
「そうかな?」
「ええ。お召しの着物のせいかしら、宗主様によく似てらっしゃる。十兵衛に言ったらきっと喜ぶでしょうね」
 花月は朔羅の言葉に、微笑で応える。その内心を気づく者は、いない。


 コンコン。
「十兵衛。いる?」
 とりあえずノックをして、声をかける。もちろんいることはわかっている。
 ギィーッと立て付けの悪い音がして、部屋のドアが開く。
「久しぶりだな。花月」
「うん、久しぶり。あ、明けましておめでとう」
「ああ。おめでとう」
 ドアのところで、形式に沿った挨拶を交わすと、花月は招かれるままに部屋へと歩を進める。物に執着しない部屋の主は、無駄な物を一切置かない。そのせいで二人は、共にベッドへと腰掛ける。

「着物を着てきている、と聞いたが」
「誰から聞いたんだい? 折角言って驚かせようと思ったのに」
「一人しかいないだろう。突然電話をかけてきて、騒ぐだけ騒いで笑師に強引に通話を切られたようだが」
 淡々と話す十兵衛の様子に、花月は俊樹がどれだけ興奮して電話を彼にかけたのか想像して、苦笑いを浮かべた。
「花月が可愛い、とても綺麗だ、と言っていたが、そんなの誰よりも俺が知っている」
「……見えないのに?」
 十兵衛の言葉に花月の声が、少しだけ寂しげになる。
「貴様が気にすることではないだろう。俺の目が見えなくなったのは、俺が貴様にたてついた咎ゆえのこと。自業自得なのだから、と何度言ったらわかる」
「でも、僕は君の目が見えないままでいるのは嫌なんだよ?」
 どこか寂しげで甘えた声をあげる花月を十兵衛はその腕の中に抱きしめる。
「気にするな、と言われても気にせずにいられない貴様の性分はよくわかっている。だが、これは俺が一生抱えていくべき許されざる罪なのだ。だから……」
「そういう君の性格もよくわかってるんだ。僕だって。……でも、どうやってわかるって言うんだい? 見えないのに」
 どこか拗ねた声で、花月は言う。
「幼い頃の貴様の振袖姿を思えば、今の成長した貴様の美しさなど手に取るように思い浮かぶ」
「……それだって、想像じゃないか。僕は十年近く着物を君の前で着ていなかったのに」
「それに、貴様は宗主様に似ているだろう。宗主様を思い出せば自然とわかる」
「……やっぱり君も、母上と比べるんだ」
 花月の声が明らかに変わる。不機嫌そうだったのが、今にも涙しそうな声音へと。

「僕は、僕自身を見て欲しいんだ。十兵衛には。想像や、昔の僕や、母上の面影と比べられるんじゃなく、今の僕を、今の君に、見て欲しいんだ。……だから、君の目がもう一度見えるようになることを、祈っている」
「……」
「君の目を見えなくさせる遠因を作ったのが僕なら、君の目に光を戻すのは僕の使命だと思っているんだ」
「……花月」
「君が見えなくなったのは自分のせいだ、と責め続けるのなら、僕は僕のために君の目にもう一度光を取り戻させたい。僕を見てもらうために。僕だけのために、だから何も言わないで」

 花月の言葉に、十兵衛は何も言わなかった。何も言わずに、花月の身体をそっと抱きしめる。
「……わかった。貴様のために善処はする」
 十兵衛のため息の混じった言葉に、花月が満面の笑みを浮かべる。そして、目の前の十兵衛の身体へ自らの身体を擦りつけるように抱きつく。
「本当に? 君が構わないのなら、強制はできないんだよ?」
「俺は全て貴様の物だ。貴様が望むなら、叶えるのが、俺の望みだ」
「……ありがとう」


 願い事はたった一つ。
 最愛の人の目が見えるようになること。
 今年の抱負も一つだけ。
 願い事ののために力を尽くすこと。


 願い事はたった一つ。
 最愛の人の願いを叶えること。
 今年の抱負も一つだけ。
 願い事のために力を尽くすこと。




<終わり>



ありがとうございました、彩風さん!花月さんのヘブンへのツッコミがツボvなオールキャラ、でもやっぱり十花ラブラブvGBは好きなキャラばかりなので、オールキャラがとても楽しいですvしかし…アレを潰すのかあ…ムリじゃん(キッパリ)。そして感激のあまり泣き出しそうになった俊樹(笑)もツボですvズルズル引きずられて、「花月〜オレは必ず戻ってくるぞ〜」とでもわめいてたのでしょうかv(←愛です)そして最後は収まるべきところに収まった二人…v
これからも更新、楽しみにしてます!



                                     
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