アンテミス・ノビリスでバイトする?page1
                
2008.10.4 サイトアップ written by きりしまMITO




「有紀!」ポン、と肩を叩かれ、少女は振り返った。
 友達が何人か、笑顔で立っていた。
「今日さ、横浜に寄ってかない?セールやってるって!」
「ごめん、パス!」首を横に振る少女。「今日は部活だもん。っていうか、美紅だって部員でしょ」
 あはは、と名指しされた少女は笑って誤魔化す。「いやー、私幽霊部員でいいからさ。必要な時だけ声かけてよ。んじゃね」「バイバイ、有紀」
 ふう、と少女は帰っていくクラスメートを見送ると、荷物をまとめて部室に向かった。




 上谷有紀(うえたにゆうき)、棚島(たなしま)高校二年二組。クラスで二位という、一見優秀な生徒だ。
 しかし、元々スポーツ面で多少名が上がるような、進学校には程遠い小さな公立高校では、あまり意味のなさない順位である。
 ガチャッ
「先輩!」一人待っていた少女が、ホッとしたように顔を上げた。
「那美ちゃん、お待たせ」柔らかい笑みを、一年後輩の部員に向ける有紀。
 途端、少女は椅子を押し退けて立ち上がり、有紀に駆け寄ってしがみついた。
「な、那美ちゃん?」
「有紀先輩!お願い、助けて下さいっ!!」

 

「ありがとうございました!またぜひ。会えるの、楽しみにしてるから」
 華やかなウェイターのハンサムなマスクに、最後の客は頬を染めて「また来るねー」と手を振って去っていく。
 にっこり笑顔でそれに応えるウェイターを尻目に、喫茶のマスターらしき男は、一人黙々と後片付けをしている。
 振り返った途端、ウェイターは疲れた表情になり、カウンターにもたれかかった。「井吹先輩〜」
「店ではマスターと呼べ」ひどく無愛想に応えるマスター。
「早く新しいバイト、何とかして下さいよ〜。このままじゃ、オレ、死ぬって」
「週末から那美(なみ)が入る。安心しろ」
 更に眉を寄せるウェイター。「……那美ちゃん、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何もない。やらせるだけだ」
「荒療治ですか」苦笑するウェイター。「でも、それでもあと最低でも三人いないと、休むこともできないっスよ。まったく、何でみんな急にやめちゃったかな」
「理由は聞いただろう。高田は、実家に帰ると」
「でもあとの三人は、駅前の新しいカフェに引き抜かれたようなもんでしょ。そりゃ大型チェーンで有名だけど、何でここをやめちゃうかな〜」
「給料の差だよ。……お前も変わりたいか?」
 マスターの探るような目に、至って脳天気な表情のウェイターはブンブン手を振る。「とんでもない!オレはここ、気に入ってますから。女の子にいくら声かけても、文句言われないし」
「……別に容認してるわけじゃないぞ」ちょっと呆れたように吐息をつくマスター。
「先輩、あとのバイトもぜひ可愛い女の子を!頼んます!」パン、と手を合わせる相手に、更に呆れた顔になるマスター。「来たやつを雇うだけだ。選り好みできる状況じゃない」
 カランカラン
「……おい」外のライトも消してない上、入り口の札をオープンのままにしてあることに気付いて、マスターはウェイターを睨んだ。
「すみませんっ!……ごめんね、君、店はもう終わりなんだ」
 ドアに駆け寄ったマスターは、思わず足を止め、目を見開いた。
「……君」
「あ……」入ってきた、棚島高校の白いセーラー服の少女もまた、足を止めて真っ赤になる。
 そのまま何も言わずに突っ立っている二人に、焦れたようにマスターがカウンターから出てくる。「悪いが、もう閉店だ」
「お兄ちゃん、待って!先輩は、バイト志望なの!」途端、少女の背後から、栗色のフワフワした髪の少女が飛び込んだ。
「!那美ちゃん」目を丸くするウェイターに、しかし我に返ったようにびくっと凍りつく。
 はー、とマスターは溜息。「つまりは……バイトの面接か?」

 

 緊張して控え室に座っている有紀の前に、マスターがやってくる。
「履歴書と学生証、出して」
「あっ、は、はい!」慌てて鞄から、ついさっき書き上げてスピード写真を貼り付けた履歴書を出し、学生証と一緒にテーブルに並べた。
『うう、緊張する……てっきり那美ちゃんも一緒かと思ってたから』
 面接に一緒にいたい、と主張した少女はあっさり追い出されて、ウェイターと二人きりにされて悲壮な表情を浮かべていた。
『那美ちゃん、ホント、男の人が苦手だからなあ』苦笑し、目の前で恐いくらい無愛想な顔で履歴書を眺めている、那美の兄であるマスターを盗み見た。
『このお店は何度か来てるけど、いつもカウンターか奥にいるから、ちゃんとこうして顔を合わせるのって初めてかも。那美ちゃんにはあまり似てないきつい顔だけど、ハンサムだなあ』
 学校でも評判の美少女である後輩共々、美男美女兄妹。
 うらやましいな、とちょっと吐息。
「那美に頼まれたんだろう?」
 いきなり声をかけられ、はっとする。「え……」
「どうやら君には懐いているらしいからな。だが、そんな理由でバイトを引き受けていいのか?ここは、今人手が足りなくて、かなり忙しいぞ」
 ……バレバレか、を内心舌を出す有紀。
 部室にて、唯一まともに部活に出ている後輩の那美に、泣きつかれたのだった。
「お願い、先輩!この夏、うちの喫茶店でバイトして下さい!」
「えっ!?ど、どうして」
 ぎょっとする有紀に、那美は泣きそうな顔になる。「……ダメですか?」
「えっと、その、理由聞かせてくれない?」慌てて宥めると。
「あの、うち、急にバイトが四人もやめちゃって……」
「ええっ!」目を丸くする有紀。何度か行っているが、緑の多い居心地のいい店で、彼女は気に入っていた。
「駅前の新しいカフェにほとんど移っちゃったみたいで」
「……ああ」納得する。きっと向こうのバイト代の方が良いのだろう。
「で、お兄ちゃんが、私に、夏の間店を手伝えって……」
 うっ、と詰まる有紀。
 ふわふわの栗色の髪にお人形のような大きな瞳。学内でも一、二位を争う美少女でありながら、彼女はひどい人見知りで、特に男が苦手だ。
 今だまともにしゃべれるのは兄くらい、男の先生とすらまともに口が利けない。
『お兄さん、荒療治のつもりなのかな』
 那美は目に涙を溜め。「お願い、有紀先輩!私、絶対一人じゃ無理!残ってるバイトの人は男の人だし、新しく来る人なんて余計恐いし、やれないの!でも先輩がいてくれれば、大丈夫かもしれないから……」
 うーん、と唸る有紀。薬草部というドマイナーな部を立ち上げ、勧誘した中で、何故か自分に懐いてくれた。今だ他の部員ともしゃべるのが苦手な彼女が何故自分に懐いてくれているのかわからないが、唯一まめに部活動をしてくれる後輩の必死な頼みを、無下に断れない。
 けど……
「でも、私、今年は夏季講……」言いかけて、うっと詰まる。
 ポロポロ、少女が本気で泣き出したからだ。
「あ、わ、わかった!ただ、途中休みをもらうことになっちゃうけど……」
「大丈夫です!お兄ちゃんに、絶対認めさせます!」
 ――と、こんな感じで、ほぼ泣き落とし状態。
『でも、ここの制服可愛くて憧れてたし、それに……万が一、あの人が残ってる人だったらいいなあ、ってちょっと不純な動機もあったから、一概に那美ちゃんのせいにはできないし』
 さっき入ったときにばったり出くわしたウェイターを思い出し、赤くなる。
「いいのか?あまり休みはないぞ」
 はっと我に返る有紀。「あ、いえ、あの、どうしても途中、休みが欲しいんです!半日ずつですけど、夏期講習があるから」
「高二だったな。今からか?」
 苦笑する有紀。「はい。私、その、あまり頭良くないけど、大学はちょっと高望みしちゃってるんで」
「市大じゃないのか」
「市大です。医学部狙ってます」
 マスターは片眉を器用に上げる。「荒城(あらき)の後輩予定か」
「荒城さんって?」
「さっき会っただろう、今うちに残っている唯一のバイトだ」
 有紀は目を大きく見開く。
 あの人、医学生だったの!?
「すごい……頭、いいんですね」
「さあな。それより、講習の日程を早めに教えてくれ。調整するからな。それから制服だが、サイズはMで大丈夫か?あと、今は人手が足りてないので、週休一日しかないが、それでいいな」
 面接らしい面接もないまま話を進めていくマスターに呆気に取られる。
「え、あ、あの、いいんですか?そんなに簡単に決めちゃって」
 履歴書をファイルに挟むマスター。「あの那美が懐いているんだ、大ペテン師か、ただのお人好しかのどっちかだ。そして、安くて忙しいだけのバイトを、あいつの泣き落とし一つで引き受けてるようじゃ、どう考えても後者だ。……正直、助かった。一気にバイトにやめられて、荒城と俺だけじゃ、正直やっていけなかった」
 無愛想な顔の中、目が本当に感謝を表していると気付いて、有紀は目を丸くした。
 クールなタイプと思っていたが、こうして目に表情を宿すと、とても暖かく、頼もしい顔に見えてくる。
 まじまじ見詰めていると、相手はふいっと顔を逸らし。「那美と一緒で、土曜から開始で構わないか?」
「あ……はい!こういうバイトは初めてで、色々教えてもらわなきゃいけないと思いますが、よろしくお願いします!」





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