アンテミス・ノビリスでバイトする? page2 
                     
2008.10.4 サイトアップ written by きりしまMITO




 控え室を気にしつつも、手早く後片付けをしていたウェイターは、ドアが開いた音に、ばっと顔を上げる。
「あの、私も手伝って」「いや、今日はいい。まだ君はここの従業員じゃないからな。……おい、荒城、那美は?」
 ウェイターは苦笑する。「帰っちゃいました」
 有紀も苦笑する。男が苦手な彼女のことだ、二人っきりが耐えられなかったのだろう。
 と、ウェイターはにっこり、少女に微笑みかける。「君、バイト、決まったの?」
「……え、は、はいっ!」憧れている人に声をかけられ、真っ赤になる。
 ウェイターは、少女に手を差し出し。「じゃあこれからバイト仲間だね。オレは荒城文寿(ふみかず)、横市医学部の一年生。よろしくね」
「わ、私、棚島高校二年の上谷といいます!よ、よろしくお願いします!」
 焦って頭を下げ、おずおずと相手と握手する。
『うわ、大きい手……男の人なんだ』思わずドキドキする。
「今、バイトはオレだけだから、わからないことは何でも聞いてね。ここ、そこそこ長いからさ。それから……」
「荒城!サボるな」マスターの厳しい声に、二人とも首を竦める。
「あの、じゃあ私、これで失礼します」
「ちょっと待って、もう遅いよ。送っていくから」
「荒城」マスターの更に怒った声に、肩を竦める。「っと、ごめん、無理みたい。……大丈夫?もう暗いけど」
「へ、平気です!」真っ赤のままの有紀は、ブンブン手を振る。「ほっ、ホントに大丈夫ですから!じゃ、じゃあ、失礼しますっ」
 勢い良く頭を下げると、慌てて駆け出していった。
 楽しそうに少女を見送る荒城。「ホント、可愛いなあ、ゆうきちゃん」
「……何で下の名前を知ってる。立ち聞きしてたか」
「してないって!」ムッとする荒城。「あの子、那美ちゃんと何度かこの店に来てるだろ。那美ちゃんが『ゆうきせんぱい』って呼んでたぜ」
 片付けを続けるマスター。「本当に女はよくまあチェックしてるよ」
 ニコッ、と笑う荒城。「まあね。彼女、モロタイプだし」
 マスターの手がピタッと止まる。「……お前に、女の好みなんてあったのか」
「ひっどいなあ」テーブルを拭きながら睨む荒城。「ちゃんとオレにだって好みってもんがあるの!頭の良さそうな子が好きなんだ」
「だったらお前の学部の女全員だろ」
 苦笑するウェイター。「うーん、彼女達も悪くないけど、オレの好みは、もうちょっとお嬢様っぽいっていうか、大人しめのタイプっていうか……うちの女の子達、気の強いタイプばかりだし」
「……職場でゴタゴタはごめんだぞ」
 ニヤッ、と大胆に笑う荒城。
「オレがそんなヘマ、したことありましたっけ?」

 

 ベッドの中で、今だ興奮が収まらない有紀。
『ど、どうしよう、ホントにあの人と一緒にバイトしちゃうんだ……』
 那美に連れられて行ったお兄さんの喫茶店。そこで働くハンサムなウェイターに、有紀は一目で惚れ込んでしまったのだった。
『よくママが、TVの俳優とかアイドルとかの顔を、「甘いマスク」って言い方してるけど、あの人にピッタリ。……荒城さん、か。ううん、もし私が大学に何とか入れたら、先輩になるんだよね。荒城先輩かあ……』
 ふと帰る時のことを思い出して、真っ赤になる。
『もう!べ、別に、送ろうって言ったのは、ヘンな意味じゃ』
 そう思うのに、何か期待したがっている自分がいる。
『ちゃんとバイト、できるかなあ……舞い上がってドジしないように気をつけないと』
 やがて、とろとろと、少女は期待と不安を抱えたまま、眠りに着いた。


 そして、ついに土曜。
 いつも下ろしている髪を三つ編みにした有紀は、跳ね上がる胸を押さえつつ、朝一に新しい職場に向かった。
 店の中ではすでにマスターが仕事をしていた。
『あ、もう植物の手入れが終わってる』目ざとく花やハーブに目を留める有紀。
 準備中の札がかかっている店に入るのに抵抗感を覚えつつも、思い切って扉を開く。
「おはようございます!」
「おはよう」あまり愛想がいいとは言えない表情で、マスターは返事を返す。
「女子更衣室は向こうだ。制服はロッカーの中に下がっている。後は、那美に聞いてくれ」
 それだけをぼそっと言うと、黙々と再び仕込みに戻ってしまう。
『何というか、思った以上に愛想のない人だなあ……』
 でも、きっと優しい人だ。
 丁寧に世話していある植物を思い出し、優しい笑顔になる。
 バタン「悪い、先輩!すぐ支度するから」
『!!』いきなり飛び出てきた憧れの人に、有紀は凍りつく。
「あ、ゆうきちゃん!おはよう」
「お、お、おはようございます、荒城先輩」真っ赤な顔を隠すように、勢い良く頭を下げる。
「ゆっくり着替えてて構わないよ。準備はオレ一人で大丈夫だから」
「うちの従業員を勝手に甘やかすな」マスターの厳しい声に、荒城は首を竦めてペロッと舌を出し、有紀はびくっと飛び上がる。
「ごめん、怒られちゃったね」
「い、いいえ……すぐ着替えてきます!」バツが悪くて、更衣室に駆け込む。
「あ、那美ちゃん、おはよう」
 やっとなじみの顔を見れて、ホッとしてロッカーを開けた。
「うわあ、可愛い」赤、青、黒のギンガムチェックのワンピース、それに同じ三色のギンガムチェックのカチューシャ、そして白いエプロンの組み合わせだ。
「ね、那美ちゃん、今日……」
 問いかけて、口を噤む。
 後輩の少女の顔は真っ青で、足は震えていた。
「――有紀先輩、私、やっぱりできな」「那美ちゃんっ!!」
 できない、と言い掛けた少女を遮るように、大声を上げた。
「ね、これからさ、制服の色はおそろいにしようよ!私、毎朝迷っちゃいそうだから、那美ちゃんが決めてくれる?」
「え、あ、あの」
 人見知りの激しい少女を元気付けるように、力強く笑いかける。
「大丈夫!お兄さんもいるし、私もいるから!一緒に頑張ろうね!」
 今にも泣きそうだった少女は弱々しくうなずく。「は、はい……」
「じゃ、さっそく決めて。今日はどの色の気分?」
「えっと……赤で」それでもしっかり主張するあたりが、那美らしい、と笑う。
 素早く着替え、カチューシャを被る。
 那美の方は、褐色のふわふわな髪を、ツインテールにする。
「うわ、那美ちゃん、すっごく可愛い」
 素で美少女。男嫌いじゃなければ、さぞかしモテるだろう。
「先輩も、可愛いですよ」
「う」絶世の美少女に言われても、誉められてる気はしない。
 でも、苦笑で誤魔化し。「じゃ、行こっか!」
 半ば強引に彼女の手を引いて、更衣室の外に出る。
「すみません、遅くなって!すぐ仕事、始めます」
「じゃ、そっちの奥のテーブル、ダスターで拭いてくれる?後はもう終わってるから」
「はい!」威勢良く答えて声の主を振り返った途端、凍りついた。
『あ、う、ウソ、荒城先輩ともお揃い!』
 赤いギンガムチェックのベストに白いシャツ、黒のパンツのウェイターも、気付いてにっこりする。
「初日は全員お揃いか。いいね、こういうのって」
「あ、は、はいっ!」思わず不動の姿勢になってしまう有紀。違う意味で、那美も凍りついた。
 にっこり『甘いマスク』に笑みを浮かべる荒城。「二人とも、制服、似合ってて可愛いよ」
「あ……ありがとうございます!」真っ赤になって礼を言う有紀、相変わらず凍りついたままの那美。そんな彼女に、有紀は慌ててダスターを押し付けた。「さ、那美ちゃん、掃除しよ」
 こくん、と暗い顔でうなずくと、那美も大人しくテーブルを拭き出した。
「じゃ、集まってくれ」
 マスターの掛け声に、三人は集合する。
「取り合えず二人とも、今日は仕事を覚えていくつもりでやってくれ。手順としては、客にいらっしゃいませと挨拶。そして席を好きに選んでもらうんだが、ランチタイムは別だ。回転を早くするために誘導するが、これは荒城に任せておけ。席に着いたら、水とお絞り、そしてメニューを渡す。運びにくいようだったら盆を使うといい。その後は客からオーダーを聞いて、メモしてそこに置いてくれ。必ずオーダーがあると、一声俺にかけるように、いいな」
「はい」真面目な顔でうなずく有紀、ますます青くなる那美。
「テーブルには、昨夜荒城が番号をつけておいたから、すぐにわかるだろう。俺がテーブルの番号を伝えるから、そこから食事をテーブルに運んでくれ、丁寧にな」
 う、忘れそう!と心の中で悲鳴を上げつつも、「はい!」と懸命にうなずく有紀。
「後は客が食べ終わったら片付けるんだが、最初はタイミングがわかりにくいと思う。席を立ってからか、荒城の指示に従ってくれ。レジの方は、慣れないうちは荒城に任せて、少しずつ覚えていってくれ」
「はいはい、先ぱ……じゃなかった、マスター」ギロッと睨まれ、慌てて荒城が言い直す。
「きれいにテーブルを片付けて、椅子も直す。大体こんなラインだ。じゃ、細かい事はそいつに聞いてくれ」
「お兄ちゃんっ!」
 それまでずっと黙っていた少女が突如大声を上げる。
「無理、私、できない!絶対、絶対できない!!」
「……那美ちゃん」
「お前は全部やろうとするな」
 少女は目を見開いて、背の高い兄を振り仰ぐ。
 マスターは静かな声で。「最初はいらっしゃいませとありがとうございますの挨拶だけでいい。後は、裏方や準備、片付けの方をやれ。荒城、どうしたらお前達がスムーズに動けるようにできるか、工夫してくれ。じゃ、俺は仕込みに戻る」
 有紀も荒城もホッと息をつき、思わずお互いを振り返った。
 目が合い、赤くなってしまった顔を、有紀は慌てて逸らす。
「じゃ、細かいところはオレが説明するね」
 改めて少女二人に向き直る荒城。が、那美は、びくっと派手に飛び上がると、逃げるように有紀の後ろに回り込んだ。
「な、那美ちゃん」露骨な態度に、さすがに有紀も子落ちる機、気を悪くしてないかと、心配して荒城を振り仰ぐ。
 相手は、しかしわかっていたかのように苦笑。「あ……えっと、那美ちゃん。取り合えず聞いてくれるかな?」
 それでも那美は動こうとしない。
 有紀は思い切って振り返った。「那美ちゃん!ね、ここは頑張ろう!話をちゃんと聞いておかないと、何もできないし、お兄さんも荒城先輩も困るよ!私も一緒に頑張るからさ!」
 ホッとしたように、荒城も優しく笑い。「那美ちゃん。オレが嫌われてるのは百も承知だけど、仕事の間だけでも、オレの言葉を聞いてくれないかな?手順とか、やるべきことを説明するだけだからさ。……君が仕事できなければ、せっかく君のためにひと夏を潰してまでバイトに入ってくれたゆうきちゃんが、無駄になっちゃうよ」
 はっとする那美。
 そっと有紀を見上げると、彼女もたくましく微笑んでいる。「うん、一緒に頑張ろうよ、那美ちゃん!私だって、何も知らないし、何もできない今の状態じゃ、ただの役立たずなんだから。でも、頑張ればきっとお兄さんの助けになるし、自分にも何かいい事あるよ!」
「……はい」全勇気をかき集め、那美は何とか肯定の返事を返し、少し後ろ気味なものの、先輩に並んで立った。
 荒城も安堵した表情になり、そのままいきなり有紀にウィンクをよこす。
『!!……あれはありがとう、って意味でしょ!うー……』赤くなってしまった自分を叱咤するように、有紀は両頬を思わずピシャッと叩いた。
 それでも、ドキドキは静まらない。
『どうしよう、私、こんなんじゃまともにバイトなんてできないよ……』



                               

  

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