アンテミス・ノビリスでバイトする? page3 
                     
2008.10.4 サイトアップ written by きりしまMITO




 という考えは、死ぬほど甘いと思い知らされた。
 最初のうちは幸い客はまばらで、慣れるにはちょうど良かったが、昼近くになるとドッと増え、あまりの忙しさに目が回りそうだ。
『ときめいてる暇なんてないってば!』心の中で悲鳴を上げつつも、笑顔を絶やさないように気をつけて、オーダーを取る。
 接客をしていない那美ですら、一息つく間もなく動き回っている。
 ……客が引けてきたのは、午後二時を過ぎた頃だった。
「ご苦労。三人とも、交代で昼を取ってくれ」
 荒城に譲られて、へとへとになった有紀は様子を見計って那美の後に厨房に入った。
「マスター、休憩に入ります」
「これで足りなければ言ってくれ」
 渡されたプレートに、有紀は目を見張る。
「?何だ、嫌いなものでもあったか?」
「あ、いいえ、すっごくおいしそうです!いただきます」
 所詮まかない、と大して期待していなかったのが、店で出しても遜色のないプレートランチを出されて驚く。
『うわ、このオムハヤシ、おいしい!サラダもスープもついてるし、バイトのごはんがこんなに豪華でいいの!?』
 と、奥に現れたマスター。
「確かこれだったな」
「えっ」目を見開く。店に客として来ていた頃、良く頼んでいたハーブティーの香り。
 湯気の立つカップを、マスターは有紀の前に置く。「他の飲み物がいいなら言ってくれ。冷たいドリンクは、冷蔵庫のものを好きに飲んで構わない」
「あっあのっ」
 まだ熱いハーブティー。たった今、自分のためにわざわざ淹れてくれたのは明白だ。それも、大勢のうちの一客だった自分の好みを覚えていてくれた。
「何だ、メシ、足りないのか」
「あ、いいえ!……ありがとうございます」礼を言う。
 那美が兄だけには懐いててブラコンに近いのも、わかる気がする。
「ごはんもすっごくおいしいです。ごちそう様」
 心からの感想を述べると、マスターの顔はうれしそうにほころんだ。
「そうか」
 ドキッ、と有紀の胸が高鳴る。
『うわっ!すごく優しそうな、ううん、可愛いくらいの笑顔……何かグッと来ちゃったよ!』
「嫌いなものがあったら伝えてくれ。じゃ」
 スパイシーな香りのハーブティーに口をつけた。
 ほわっ、と体が温まる。
「……なんか、いいな、ここ」

 

 那美に声をかけてから、ホールに戻ると、店内はかなり空いてきていた。
「有紀ちゃん。まだゆっくりしてて良かったのに」
 女性を酔わせる甘い笑顔に、改めてときめいてしまう有紀。
「い、いえ、先輩こそゆっくりして下さい」
「オレは慣れてるから大丈夫。有紀ちゃんも那美ちゃんも初めてなんだから、二人で休んできたら?」
「そ、そんな。大丈夫です」
 客が立ったのを見計らい、慌てて有紀はテーブルを片付け、その間荒城はレジについた。
 再び手が空いて、自然と集まる。
「ところで、昼メシ、うまかったろ?」
「はい!」力強くうなずく。「でも、あんな豪華でいいんですか?」
「バイトのメシにしちゃ、豪華だよ。マスター、料理うまいしさ。それでオレはすっかり餌付けされちゃったわけ」
 悪戯っぽく笑う彼に、胸がドキドキすると同時に、笑みが誘われる。
「でも、先輩……マスターは、どうも人を食わせるのが好きみたいで、そこんとこケチらないんだ。その代わり、おいしいって言うと喜ぶから、必ず言ってやって」
「はい」うれしそうなマスターの笑顔を思い出すと、胸が暖かくなる。
 毎回言おう、と決意した。
 少女の柔らかい笑みを、ちょっと不満そうに眺める苦笑。
「有紀ちゃん、もしかしてマスターって好みのタイプ?」
「えっ!?」カアッ、と真っ赤になった。「あ、い、いえ、そんなつもり、なくて……素敵なお兄さんで、那美ちゃん、うらやましいなって」
 途端、興味深そうに荒城は彼女の顔を覗き込む。「有紀ちゃん、兄弟いるの?」
「年の離れた弟だけです。だから、上の兄弟には憧れてて」
「そっか!オレ一人っ子だから、兄弟には憧れるなあ。あ、ね、有紀ちゃん、晩メシ、ここで食べてくでしょ?」
「えっ!」目を丸くする有紀。
「残り物主体だけどね、マスターが食わせてくれるよ」
 憧れの人と夕ご飯。とても魅力的だが……
「今日はお母さん、ごはん作っちゃってると思うから……」
 途端、がっくりした顔になる荒城。「そっか、残念。でもいつか、一緒に食べようね」
 カッ、と再び有紀は真っ赤になってしまう。『うわ、やっぱりまだ慣れない!ハンサム過ぎて、こんな風に言われちゃうと、正視できないよ……』
「おっと!有紀ちゃん、向こうとあっちの客、引き上げて大丈夫そうだよ。オレ、こっちの方をやるから、あっちの10番テーブル、頼むね」
「え、は、はい、先輩!」慌てて有紀はお盆を取りに行く。
「ね、有紀ちゃん」そんな少女を呼び止める荒城。
「何ですか?」
「ちょっと気になってたんだけど。バイトだからさ、先輩なんて呼ばなくていいよ。荒城でいいからさ」
「え……」言いよどむ有紀。「……その、一応、後輩予定のつもりなので……」
「えっ!」目を見張る荒城。「市大に行くの?」
「はい。成績悪いけど、それでも医学部狙ってます」
「そっか!」ニコッ、と笑みを浮かべる。「楽しみに待ってるよ、有紀ちゃん」
 そのまま、二人とも別々にテーブルに向かい、皿を引き上げる。
 運びながら、チラ、と荒城は、まだ慣れていなくて四苦八苦している有紀を振り返る。
「頭が良さそう、じゃなくて、本当に頭のいい子かあ。
 ……あれを知られちゃったら、オレ、軽蔑されるかな……」



                              

 

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