アンテミス・ノビリスでバイトする? page4 
                     
2008.10.12 サイトアップ written by きりしまMITO



 180を越していそうな、大柄のショートカットの少年は、顧問の先生を睨み下ろした。
「……わかりました。俺、野球部、やめます」

 

「……クソッ!」呻くと、思わず足元の小石を蹴った。
『これじゃ、何のためにこんな学校に入ったんだかわかりゃしねェ』心の中でグチる。
 関口啓、棚島高校二年生。成績優秀な彼がこの学校を選んだのは、野球のため。
 三年前は甲子園初出場ベスト8、一昨年はベスト4というすごい成績を残した、それまで無名だったこの野球部に憧れて、高校のランクを思いっきり下げて入学したのだった。
 ……だが、それが報われたのはたったの一年。
 自分の入学と同時に卒業してしまったスター選手。でも、残った先輩達は、甲子園に出場するだけの実力を持った人達だった。
 甲子園が終わって、彼らは学校から一人残らず消えた。
 都の有名高校に全員引き抜かれたのだった。それどころか、二人いたコーチまでもが引き抜かれて、残ったのは二流以下の選手と、野球はプロ野球を見るだけという素人の顧問だった。
 先輩すらろくにいない状態で、二年になった関口は必死で頑張った。
 才能のない自分がみんなを率いてどれだけ頑張ったところで、たかが知れている。ましてや顧問は練習に最初に顔を出すだけで、何一つ指導できない。
 選抜第一戦を大量失点で敗退、という昨年までの棚島を知ってる者にすれば悪夢のようなみじめな結果。
『……才能ねェんだ、練習するしかないだろ!あんな無様な醜態晒さないように。なのに、字油練だからって、俺以外一人も来ないのはどういうことだよ!顧問のクソも、夏休みの自由練だから、仕方ないって……フザケんな!』
 むやみにあちこち殴りつけたい衝動を必死で押さえ、気を逸らすように通りの店を覗いた。
『あれ、こんな所にカフェなんてあったんだ。……へェ、なんかちょっといい感じ?お、バイト募集中か』
 野球部をやめた今、ひと夏すっぽり予定がない。
『夏の間だけでいいなら、バイトでもすっかな……』
 緑一杯の店。さわやかな香りに惹かれるように、ガラスの窓から中を覗き込む。
『!あれは上谷!あいつ、ここでバイトしてたのか』
 いつもの制服と違って、赤いギンガムチェックの可愛いワンピースに、普段下ろしている髪を三つ編みにしていて、雰囲気が違う。忙しそうにくるくる働いている。
『へェ、あいつが……』関口の目はふと優しくなる。
 やかましい女は嫌いだ。そう公言してはばからない彼は、モテそうなルックスやスポーツマンであるにも関わらず、女子からはとっつき難い存在として扱われていた。
 そんな彼に臆せずに近付いてきて、「薬草部入らない?幽霊部員でいいから!」と誘ったのは彼女だ。
 野球部で忙しいから純粋な幽霊部員で、一度たりとも部に顔を出したことがない。だが、それが縁で、学年一位に彼によく勉強を聞くようになった。
 決して理解も物覚えも早い方ではない。だが、他の連中がその場しのぎだけで聞いてくるのと違って、本当に理解したくてぶつけてくる質問に、時間を経てちゃんと問題を解いてみせて、「正解!」って言ってやると見せる、うれしそうな笑顔に、他の女にはない何かを感じていた。
『ま、いいダチってとこだな』自分に言い聞かせる。
 が、その表情はいきなり強張った。
 男の自分も認めるハンサムなウェイターが話しかけた途端、有紀の顔はひどく不安そうに凍りついたのだ。
『!あのヤロー、上谷に何を』ガラン、と思わずドアを開ける。
「いらっしゃいませ」「いらっしゃ……あれ、関口くん!」
「えっ」さっきの顔が嘘のような、いつもの彼女の表情に、拍子抜けする。
「有紀ちゃん、知り合い?」
「はい、クラスメートです。関口くん、どうぞ、好きな席に座って」
「え……あ、いや、その……」
 お前があいつに何かされてると思って飛び込んだ。とは今更言えず、言われるがままに窓際に座る。
 ほどなくして、有紀が水とお絞り、メニューを運んできた。
「どうぞ。……何だか知ってる人だと、却って緊張しちゃうな」
「そうか?」
「うん。あ、ここ、食事すっごくおいしいよ」
「いや、俺はコーヒー……」
 と言い掛けたが、隣の席のトーストのいい匂いに、食欲がかき立てられる。



                              

  

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース