キエナイ イタミ 肆




光を下さい

こんな世の中だからこそ

光が必要なのです


貴方に求めてもいいですか?

それとも こんな自分は嫌ですか?

ねえ

光を

下さい




『絃の花月』と『雷帝』の戦いが終わって一週間が経った。
十兵衛の傷は無限城の中でもなかなか治らず、意識の回復はまだしていない。
付き添うのは朔羅。そこに花月の姿はなかった。
絃の花月はその後の事後処理と、体勢の建て直しで忙しかった。
そんな花月を『風雅』のメンバーは痛々しげな面持ちで見ていたのだが、それに花月は敢えて気づかない振りをしていた。

「花月・・・・」
廊下を歩いていた花月を俊樹が呼び止める。
「何、俊樹?」
言い方は何時もと変わらない。なのに・・・花月を取り巻く雰囲気が何時もとまるで違う。
「その・・・筧の側にいなくて・・・」
言いかけて言葉がつまる。
花月の瞳は氷のように冷たく俊樹を見つめていたからだ。
「・・・・・大丈夫、朔羅がいる」
淡々と言う花月に俊樹は恐ろしさを感じていた。
ただ、そう言うと花月はまた歩き始める。
何も映そうとしない瞳のままで・・・・。

花月の後姿を見送りながら、俊樹は言いようのない不安に駆られる。
ぐすぐすと心の内を燻る様な嫌な予感。
「花月・・・・」
俊樹の囁きと不安は花月には届かなかった。







ロンファ
  龍華・・・・

君はずっと側にいてくれたんだ・・・・
なのに俺は、自分が傷つきたくなくて全てから逃げようとした

ごめん

君を忘れたわけじゃない

君がいなくなったあの日を俺は忘れないから



『十兵衛っっっっ!!』
自分が仕掛けた攻撃から身を呈して庇った十兵衛のその姿が、龍華の姿と重なった。
その身体にしがみついて泣く「絃の花月」の姿が何かを思い出させた。

「か・・・づき・・・」

もう一度逢いたい。
あの時に感じたものを銀次ははっきりさせたかった。




気づけば銀次は再び風雅の統治区域内に入っていた。
ここに来ればあの「絃の花月」に逢えるかもしれない、と思うと無意識に足を運んでいた。
何気なく周囲を見渡す。
人っ子一人おらず、辺りは静けさだけが漂っていた。


やっぱり・・・いない・・・か・・・・


小さく溜息をつき、引き返そうと後ろを向いた瞬間何かにぶつかり転びそうになる。
「なっ・・・」
ぶつけたところを擦りながら目を開けると、銀次の前に花月が唖然として立ち尽くしていた。
「い・・絃の花月!!!」
「雷・・・帝・・・?」
ぽかんとしたまま二人は暫くその場から動けずにいた。

「どうしてここへ?」
花月の声は先日のものと違って穏やかだった。
微笑みこそ浮かべていないが、整った顔立ちはひどく美しく、可憐だった。


本当に男なのかな?


そんな疑問も湧くが今はそれどころではない。
自分を見つめる花月の視線に少しドギマギしながら、銀次は慌てて話し始めた。
「今日ここに来たのは・・・・」

本当にこれが先日の「雷帝」だろうか?と、花月は疑問に思う。
今、目の前にいるのは普通の少年にしか見えなかった。
本当は戦いを望んでいない少年がいた。

あの凍りつくような冷たい瞳は何処に行ったのだろう?
冷酷なあの表情は・・・・?

本当の彼は今の彼なのだろうか?
そんな疑問が花月の中で浮かび上がる。
しかし、実際に話をすれば年相応に笑いただの少年にしか見えない。



その疑問は銀次も感じていた。
自分を不思議そうに見つめ、それでも静かに話を聞いてくれる目の前の人が、先日の人物と同じ人なのだろうか・・・・と。
冷たい眼差しで自分を見つめていた『絃の花月』は今はここにいない。



くす・・・


ふいに花月の口から笑いが洩れる。
「えっ?」
弾かれたように銀次は花月を見つめる。
「ごめんなさい・・・・でも・・・・」
くすくすと笑い続ける花月に、どうしたらよいのか分からず銀次はただ見守る。



この人も同じだったんだ・・・
戦いたくなくて
でも
戦わなくちゃいけなくて・・・・

だったらどうして 戦わなくちゃいけないんだろう?

さだめ
    それが『運命』だと言うのなら
大切な人を傷つけてまで戦いに赴かなくてはいかないのかな

『大切な人』

ああ

だからあの時胸が苦しくて
彼を失う事を考えたら目の前が暗くなって・・・

それに気づかせてくれたのは





笑い続けていた花月の瞳から一筋の涙がこぼれる。

きらきらと、静かに落ち続ける涙に銀次はそっと指で触れる。


綺麗な人
あんなに血を浴びても なおも美しい人




銀次の心が大きく揺れ動く。
次の瞬間、銀次は花月を引き寄せ抱きしめていた。
一瞬だけ花月の身体が凍りついたが、すぐに緩み静かに花月は銀次の胸の中で泣き続けた。
「君も戦いたくない、そうだろ?絃の花月」
涙を拭い、花月は顔を上げた。
「この無限城では無理な話ですか?」
『風雅』の『絃の花月』ではなく、花月として銀次に問う。
「俺はもう『戦いたくない』から・・・・・」
「雷帝・・」
「『雷帝』じやない。天野銀次だよ」
「僕だって『絃の花月』じゃない。風鳥院花月ですよ」
「ふうちょ・・・・????」
「・・・・花月でいいです」
「なら俺も銀次でいい」


思えば二人ともその異名だけがこの下層階に響き渡っており、本名を知るものなど極親しい者ばかりだった。
今知ったお互いの名に二人はふっと笑う。     
「俺、この能力に目覚めたのはつい最近で・・・・大切な仲間を失った・・・・。
そしてその時強く願ってしまったんだ、『ここにいる連中を殺せるだけの強い力が欲しい』って・・・・。
気づいたらそいつらは全員そこに倒れていて・・・・どうしたらいいか分からなくて・・・。
でも、俺の噂を聞いて皆来るんだ。
俺は戦いたくないのに・・・」


『戦いたくないのに』


銀次のその言葉が花月の心を深く突く。
心の中で何かが疼く。
「僕も・・・・同じです・・・、銀次さん」
「えっ?」
「貴方と同じなんです・・・・戦いたくない。でも、そうしなくては平穏は訪れないような気がして・・・」


戦いを望んでいる自分もいて
気づいたらこの両手は真っ赤

このままじゃ自分が消えてしまう
壊れてしまう

そんな僕にこの人は光をくれた
忘れていた『モノ』とこの人は思い出させてくれた

『依存』かもしれない

でも

この人なら・・・・・


「銀次・・・・さん」
「『さん』なんて、いいよ」
「僕も貴方とここを平和に導きたい。ダメですか・・・」
あっけに取られたように銀次はぽかんと口を開けたまま微動だにしない。
「ダメ・・・・・ですか?」
真っ直ぐに見つめられ、銀次は首を縦にも横にも振れずにいた。
「また、会ったら答えを聞かせてくれますか?」
そう言いながら花月は銀次から離れる。
「僕は本気ですから」
にっこりと微笑みながら花月は去っていった。



 ※




光をくれた貴方

今度は自分が光になれるだろうか


薄汚れたこの世界を照らし出せるだけの

強い

光に


僕は
その光の側にいたいと思った



 ※



花のように美しいのに
君は強い

紅い花が俺を見ている

自分とこの世界を変えたいと言った
側にいたいと彼は言ってくれた


あの真っ直ぐな瞳


一度見つめられたら目を反らせない

花月

君となら世界を変えられるだろうか・・・・





数日後、風雅は解散する事となる。

あるべき日の為に・・・・

    伍  




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